「さまざまな商品の製剤を手がけ続けるレシピ開発者」 COLOR creators Vol.2 楠見 真実
2023.10.13
“COLOR YOUR HEART
心に彩りを”
ヘアカラーがもたらすのは、見た目の変化だけじゃない。
髪色とともに気持ちまで美しく染め上げ、生き生きと輝く毎日へと導いてくれる。
そんな思いのもとに多彩な色を創り出し、日々を鮮やかに彩るホーユーの社員を、私たちは「COLOR
creators(カラークリエイターズ)」と名付け、ご紹介していきます。
今回のカラークリエイターズは、総合研究所製品開発第1研究室の楠見真実(取材当時)。
結婚とそれに伴う転居のため一度退職しましたが「まだまだ製剤開発に携わりたい!」という強い想いを持って復職。以降、「レシピ開発者」として、ヘアカラーやカラートリートメントなど数々の商品の製剤を手がけてきた彼女が、仕事へのこだわりや取り組みについて語ります。
COLOR creators(カラークリエイターズ)
総合研究所製品開発第1研究室 課長代理(取材当時)
楠見 真実
製剤開発の担当者として、愛知県長久手市にある総合研究所にて日々製品の研究開発に取り組んでいる。最近では、昨年9月に発売されたシエロ カラートリートメント、今年9月に発売されたビゲン スキャルプエッセンスの開発にも携わる。
- 目次
「ヘアカラーを開発したい!」強い想いを持って復職
幼い頃からヘアアレンジやヘアカラーに興味があったという楠見。大学院を卒業後、髪の毛に携わる仕事がしたいと希望しホーユーに就職した。
「自分が作ったものをお客さまが理由をもって選んでいただける仕事をしたくて、お客さまに直接製品を届けるメーカーに入りたいと思っていました。それから、小さい頃から理科が好きで、シャンプーなどのパッケージの裏にある成分表示を見るのが好きだったんです(笑)」
入社後は、医薬品開発チームの処方検討の部署に配属。愛知県長久手市にある研究所で3年半ほど勤務したところで結婚し、夫の仕事の都合で愛知県から東京へ転居することになり、退職することに。
「すごく入りたかった企業で、仕事にやりがいを感じていて楽しく働いていたので、正直、心残りはありましたね。でもその時は夫婦の仕事のバランスを考えて、夫の仕事に合わせる形で退職を選びました」
退職後も研究開発に対する想いをずっと持ち続けていた楠見。そして2年が経った頃、夫婦の働き方を考える機会が訪れ、当時1歳の娘とともに家族で愛知県へ戻り、念願の復職を叶える。
「ホーユーでの仕事に心残りがあることを夫に伝えたら、今度は夫が私に合わせてくれました。まずは、当時の室長に連絡して『戻ってヘアカラーの開発をしたい』という気持ちを伝えました。これまで子どもを持つ先輩方が頑張って働いている姿を見てきたのと、研究開発という仕事はある程度自分の裁量で進められることが分かっていたので、そこも考慮して復職しました。
製品開発部門は女性が多くて理解を得られていますが、私自身、やっている仕事を人に預けずなるべく自分でやりたい、大切なタイミングであれば自分がプレゼンしたいという気持ちがあるので。そこは家族に協力してもらいながら、チームワークで乗り越えています」
復職後は、総合研究所製品開発第1研究室で市販のヘアカラー製品の開発担当となった。
「“お客さまの求めているものを作る”という基本的なスタンスは、医薬品もヘアカラー製品も同じです。でも実際に製剤の開発をするときに、求められる性能や、使う染料の特性があるので、そこは社内の情報を共有したり、OJTで教えてもらったりしながら進めました。
ヘアカラーって、実は教科書のようなものがあまりないんですけど、ホーユーは歴史が長いので、膨大な情報を持っているんですよ。
私が思い付くことはだいたい先輩が過去にやっていて、データベースにアーカイブが残っているので、『あ、やってる!』と見つけて、そこからまた発展させる、という作業でした」
いちばん大切にしたいのは“お客さまのこと”
思い付いた製剤を仕事の空き時間に試すなど、目の前の仕事に没頭する日々。
そんな中、彼女にとって初となる大きな案件が舞い込む。それはビゲン
ポンプカラーが冬場に泡になりにくいというお客さまの声への対応だった。
ビゲン
ポンプカラーは、ハンドソープのような容器でポンプを押すだけで泡状のヘアカラー剤が出る商品。泡タイプのため白髪染め初心者の方や不器用な方にも使いやすくなっている。
- ※使用上の注意をよく読んで、正しくお使いください。
- ※ヘアカラーでかぶれたことのある方は絶対に使用しないでください。
- ※ご使用の前には毎回必ず皮膚アレルギー試験(パッチテスト)をしてください。
「基本的な製剤開発のマニュアルを確認しながら、商品企画部門や生産部門など、ほかの部門と調整しながら進めていくのが大変でした。
それまで販売されていたポンプカラーの性能のいいところはそのまま、改善すべきところは改善しないといけない。
でも、改善しようとすると、残したかったいいところがちょっと悪くなっちゃうことが多いんですよ。そこはトレードオフにならないように気を付けました。
それから、なるべくコストを抑えるように、生産設備を変えず、これまでの流れの中でできることを考えましたね。とても勉強になりました」
製剤の試行錯誤はもちろん、約半年間の品質保証テストも実施。改良後の新処方での発売に至るまでに1年半の期間がかかった。
「なぜ泡質の改良に対応したかというと、いちばんは“お客さまに危険が及ぶことは絶対に防がないといけないため”です。
髪の毛の上でうまく泡にならないと、垂れてきて目に入りやすくなるじゃないですか。もちろんいただいたお客さまの声に対応するという意味もありましたが、お客さまに少しでも危険が及ばないことが最重要ということを考えていました。
ホーユーの品質基準は厳し過ぎるという声を社内でたまに聞きますが、私は絶対に大切にしていきたいと思っています」
改良を経て、新処方で発売されたビゲン
ポンプカラー。次の冬には「泡になりにくい」というお客さまの声が激減していた。
「品質保証部門の担当者が以前の製品と比べた時に、『めっちゃいい泡になってるじゃん! すごいね、頑張ったね!』と言われたのがとても嬉しかったです。ヘアカラーに携わって、初めてちゃんと課題解決ができたことは、復職してよかったと思えたことのひとつですね」
常にお客さまと向き合い 求められているものを作り続ける
医薬部外品であるヘアカラーの製品開発を経て楠見は、カラートリートメントをはじめとした化粧品の開発を担当することに。
「ヘアカラーが1回で染まるのに対して、カラートリートメントは徐々に髪色が変化するので、ヘアカラーにずっと携わってきた身としては『え、これ、染まっているの!?』と驚きました。
それと同時に“ヘアカラーがあるのに、お客さまはどうしてカラートリートメントを選ぶのだろう?”、“お客さまが求めている染まり方ってなんだろう?”と、いろいろ考えるきっかけになりました」
消費者の視点に立ちながら開発を続けていく中で、気づくことが多かったという。
「当社として、カラートリートメントの元々のコンセプトは『いつものトリートメントに置き換えることで手軽に染められる』ということです。
でも最近は、乾いた髪に塗って、少し長く置いてから流す、という使い方をされているお客さまもいらっしゃることがわかりました。
それってヘアカラーと変わらなくないですか? と思ったんですけど、“そのほうがダメージが少ないと思うから”という理由だったんです。実際、カラートリートメントは髪のダメージがなく白髪ケアをすることができます」
そのような消費者のニーズによって生まれたのが、シエロ カラートリートメント。
「染毛力を上げて、“乾いた髪でも使いやすくよく染まる”ことを目指しながら開発しました。よく染まるけど、肌を汚さない、当社では新規採用した染料を使っています。
カラートリートメントに何が求められているのか、今後さらに商品企画部門と一緒に追求していくべき分野だなと思っています。もっとお客さまと向き合って、求められているものを作っていきたいですね」
「お客さまと向き合うこと」を大切にするあまり、自らドラッグストアに足を運んで市場調査をしたことも。
「“この人は、どうしてこの商品を選んだのかな?”って単純に気になるんです。
休みの日に一般客としてドラッグストアに行った時、白髪染めコーナーで商品を選んでいる人を見つけて『私、初めて白髪染めをしてみようと思うんですけど、これっていいですか?』と質問したんです。
そうすると、『これはこういうところがいいよ』と、とてもリアルな声が聞けました。これは業務とはまったく関係なく、私が独断でやったことなんですが……」
個人的なことだけではなく、ホーユーの研究開発のムードも変わってきたと楠見は分析する。
「ここ10年くらいで当社の研究開発が“もっと消費者を見よう”という雰囲気に変わっているんです。
それはなぜかというと、商品企画部門から『こういうのが欲しい』と打診された時に『こういう技術がありますよ』と提案するのが我々、製剤開発部門だと思っているんですね。その『ありますよ』と提案していくためには、私たち自身がお客さまを見て、未来を予測しながら技術検討をしていないといけないんです。
私たちの課は、商品化の前から自分たちで考えてストックを増やすなど、かなり積極的に取り組んでいると思います」
製剤者として まわりの声を聞くフラットな視点を忘れない
現在は課員の指導を含め、課員が担当する製剤を幅広く見る立場に就いている。
「マネージメントに近い立場になりました。若い世代の製品開発力を伸ばしながら、いろいろな部門との調整も大切にしていますね」
最近では、ビゲン
スキャルプエッセンスの製剤を担当。さまざまな人の手によって15年以上研究されてきたヤーバサンタエキス配合※の商品が満を持して発売された。
※エリオジクチオンアングスチフォリウム葉/茎エキス(保湿成分)
「私が入社した頃から研究が始まっていて、実際に私が担当したのは3年くらい前です。まずは製品に近い頭皮ケアエッセンスを開発して、白髪のある社員たちに使ってもらって、毎週みんなの髪をチェックする、という作業をやっていました。
毎日使っていただくものですし、いろいろな人が使いやすい製品にするために、使い心地、香り、容器も含めて頭皮に当たった感触などを意識して、開発を進めました」
製剤開発の担当者として、仕事をしていく上でのこだわりを聞いた。
「自分で作ったものは発売前に自分で試すようにしています。まだ白髪がない人もいるので、そこは人それぞれですけどね。
私は白髪がけっこうあるし、白髪染め製品を使う世代と近い年齢になってきたので、リアルな体験ができています」
さらに、「自分のこだわりを持ち過ぎないこと」もこだわりのひとつだと話す。
「製品開発をやっていると、“絶対にこっちのほうがいい!”と視野が狭くなりがちだし、お客さまがわからない部分でこだわり過ぎちゃうことがあるんです。それは決して悪いことではないんですけど、スケジュールもあるし、生産管理もありますからね。
私も以前は“こうあるべき”というこだわりが強かったけど、いろいろな経験を経て全体を見る立場になったからこそ、ほかの部門やユーザーの声を聞くフラットな視点を持つことができたのかなと思います。ただ、製剤に没頭する時期も大切なので、若い人にはどんどんこだわってもらいたいです!」
あなたにとっての心の彩りとは?
「想像の実現」
――根本的に、頭の中で想像したものを作り出すのが好きなので、“こういう製品があったらいいな”、“こういう製品が欲しいな”と思うものを自分で作れることがとっても楽しいです!
それがいろいろな人の手を経て、ちゃんと製品となって、使ってもらうことが私の喜びですね。今後も続けていきたいなと思っています。
私は料理も好きで、“想像したものを作り出す”ということでは製剤と似ているかもしれないですね。研究所内には料理好きが多いんですよ。みんな香辛料をいっぱい持っていますから(笑)。
あとがき
インタビュー中は仕事のことを終始楽しそうに語り、ものづくりに繋がる研究開発が本当に好きなことがひしひしと伝わってきました。
ホーユーにはヘアカラーに熱い想いをかける社員がたくさんいます。一人一人が違う役割を持ち、個性を発揮しながら活躍しています。
COLOR
creators Vol.1では、メンズビゲン、ビューティーン、シエロなどのヘアカラーの商品企画に力を注いできたホーユー社員が想いを語っています。ぜひこちらもご覧ください!
COLOR creators Vol.3では、原料から製品出荷に至るまでホーユー製品のクオリティを堅固に守り続けている社員が想いを語っています。